似顔絵にまつわるエピソード(その28)|似顔絵の描き方が驚くほど上達する方法

(※とある女性の手記です)
はじまりは、いつも雨だった。

どこかで聞いたようなフレーズだが、彼と出会った日も、初めてデートをした日も、一緒に住み始めた日も、一度別れたけどお互いにどうしても忘れられなくてやり直しを誓った日も、何だかとにかく、節目節目で新たに何かが始まる日は、いつも雨がしとしとと降り続く日だった。

その日も、そうだった。

彼が、絵を描きたいというので、モデルになることを約束していた、その日。

それは特段珍しいことではなく、美大出身の彼は、今でも趣味でよく絵を描いていて、似顔絵のモデルにさせられることも多かったのだ。私を描く時は、写実的な本格的なものから、ポップなものまで、様々なバリエーションを駆使してくれた。その出来上がりをみるのが、私の楽しみでもあった。それ故、もういい加減、いちいちモデルにならなくても、みないで描けるでしょ、などといういやらしい突っ込みは、あえてしないでいるのだった(笑)。

いつも通り、数時間を要して、彼は描き上げた。その顔は、いかにもやりきったというような、満足感に溢れたものだった。それも、いつも通り。いや、今考えると、いつもより若干興奮気味だったような気もするが。

「どれどれ、みせてごらん。」

彼に向かって、わざと偉そうに語り掛ける私に、彼はちょっとはにかむような、躊躇するような、そんな表情を返してきた。心なしか、頬もうっすら赤くなったような気がした。

「???」

彼の態度を少し訝しく思いながら、彼の方に回り込んで、その絵を目にした私は、ボーッと体が熱くなっていくのを感じた。

似顔絵としての出来栄えは、毎度のことながら流石としか言いようがなかった。今回は、本格的なほうである。しかも、いつもに増して、詳細までかなり描き込んであった。

ただ、絵の中の私の格好・・・豪華な純白のウェディングドレス・・・。

一言、彼がつぶやいた。

「結婚してくれ。」

その瞬間、彼は、私の恋人から、婚約者になった。

外はやっぱり、雨だった。

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