似顔絵にまつわるエピソード(その12)|似顔絵の描き方が驚くほど上達する方法

(※とある女性の手記です)
うちの会社には、専属のデザイナーがいる。

といっても、カッコいいパッケージデザインとか、トレンディなWEBデザインとかをやっている訳ではなく、最近の仕事はもっぱら社員の名刺に載せる似顔絵のデザインだ。

今や特に珍しくはなくなったが、我が社がそれをやり始めた当時は、文字や会社のロゴ以外に、アニメちっくな当人の似顔絵が載っている名刺が、それはそれは面白がられて、顧客からの受けも上々だった。

我が社は、一応そこそこの規模があり、毎年春には数百名規模の新入社員を迎え入れる。入社内定者が出揃った年明けから数ヶ月は、当のデザイナーの最も忙しい時期となる。

そんな時期、当のデザイナーに、私は自身の名刺に載っている似顔絵のデザイン変更を申し出た。このユルさがうちの会社のいいところなのだが、個人の裁量で、割と自由に名刺デザインの変更が可能なのだ。そのため、年明け数ヶ月に限らず、実は年間を通じてこのデザイナーには仕事が舞い込んでくる。なんせ顧客は、数で言えば5桁にも届こうかという全社員なのだから。

状況を考慮してこの時期をはずしてあげるのが親切というものなのだろうが、このデザイナー、実は私の親友で、私の紹介で我が社の仕事をしている。それ故、私からの依頼は基本的に断れないことになっているのだ。というか、私が、あの手この手でやらせてしまうだけなのだけど。

当人、その辺りもよく分かっているので、抵抗しても無駄という判断を早々に下してくれたようで、イヤな顔を一つだけして、黙って了承してくれた(笑)。

ところで、私が何で名刺の似顔絵デザインを変更したかったかというと、これが実は、私に似ていないからである。かわいすぎるのである。そのため、名刺を渡した途端、実際の顔と名刺の似顔絵とを見比べて、苦笑いする顧客が続出しているのだ(というのは私の被害妄想だということも承知しているのだが、いい加減、「名刺のほうがかわいくてすみませんね~」などと言いながら名刺交換することに、疲れてしまったのだ)。

なので、考えに考えた挙句、デザイナーへのリクエストは、「かわいくするな!かといってブスにもするな!それ相応に描け!」といったものである。つまりは、ちゃんと私に似せてね、という意味である。

しばらくして、当のデザイナーから、デザインが上がったから見て欲しいとの連絡が入った。ほどなくして見せてもらったそれは、非常に満足のいくものであった。うん、似てる。これなら、卑下する必要もないし、かといって実際はもう少しマシだろ!などと悔しい思いをすることもない。ちょうどいい塩梅だわ。

ところで、それから数ヶ月たった今、「名刺のほうがかわいくて云々」のセリフは一切言わずに済んでいるものの、やっぱり名刺の似顔絵くらい実際よりちょっとかわいく描いてもらったほうがいいのかなぁ、などとまた面倒なことを考え始めている自分がいる。とかく人間の思考というものは、自身でも予想不可能なほど勝手で気ままなものなのである。

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