(※とある女性の手記です)
「ほっこり」という言葉が好きだ。
ほっとするとか、癒されるとか、心が温かくなるとか、そんな意味である。
その人が描いてくれた私の似顔絵は、まさに私を「ほっこり」とさせる、不思議な力を持つものだった。
何てことはない、基本的には黒一色でシンプルに描いた似顔絵なのだが、その崩し具合というか、決して写実的ではない中に絶妙な配合でユーモアが注ぎ込まれている感じ、織物でもないのにテクスチャーとか風合いといった言葉がしっくりくるその質感、とにかくすべてが心を包み込むような温かさに満ちている。これが、似顔絵の醍醐味なのだろう、それを、全体で表現しているような、そんな雰囲気すらあった。
その人の言葉で、今でも忘れられないものがある。
「似顔絵を描きながらモデルの顔をよーく観察しているとね、その人の色んなものが見えてくるんですよ。過去に苦労してるな、とか、今大きな悩みを抱えてるな、とか、やる気に満ち溢れてるな、とか。とにかくね、手に取るように分かる。やっぱりね、人間ね、そういうのって、顔に如実に表れるんですよ。」
それ以降、私は人の顔をじーっと観察するのが癖になってしまった。とはいえ未だ、その人のように、色んなものが見えたりすることはない。
そして、描いてくれた似顔絵を観て「すごくほっこりします!」と正直な感想を述べた私に、その人はこうも言ってくれた。
「それはね、やっぱり、あなた自身がそういう人だからですよ。あなたは、周りを、ほっこりさせる人なんでしょう。私の似顔絵には、それがちゃんと映るんです」