似顔絵にまつわるエピソード(その27)|似顔絵の描き方が驚くほど上達する方法

(※とある男性の手記です)
「今の世の中、物騒な事件が多すぎる。」

とあるファミリーレストランにて、珍しく僕と二人で外食をしている最中、親父が突然つぶやいた。そして、最近起きたいくつかの事件について、自らの考察を事細かに語り始めた。

漠然と社会に対する不満やストレスを、ことあるごとにぶつけてくるのが親父の癖(?)ではあったので、僕は特に気に留めず、運ばれてきたハンバーグステーキに手を付けることにした。

ふんふん、はいはい、と、適当に相槌を打ちながら話を聞きつつ、10分ほど過ぎて僕のハンバーグが半分になっても、親父の話は止まらなかった。

内容は、労働環境をめぐる識者の取り組みや、国の教育制度に対する不満などなど、さらには、資本主義がどうのうといった経済の仕組みや社会の基本原理にまで発展していた。

このまま語らせていたら、レストランの閉店まで付き合ったとしても話は終わらないだろう。実際過去には、休日前夜、自宅でちびちびと二人で晩酌をしながら親父の話に付き合いつつ、途中何度も居眠りをしてしまいながら、翌朝の7時を回ってもまだ親父がしゃべっていることに気付いたということもあった(僕が居眠りをしている間も、親父が一睡もしないでずっと語り続けていたのかどうかは未だに定かではないのだが・・・。その後、寝床に入って爆睡し、夕方起きだしてきた親父は、何一つ覚えていなかったのだから)。

さて、こういう時はどうしたらいいんだろうか。

親父の話も半ば上の空になり、そんなことを思案していた僕はふと、妙案を思いついた。
持っていたカバンからおもむろに手帳とペンを取り出し、ササッと親父の似顔絵を描いたのだ。

「ねぇねぇあのさ、親父今、こんな顔してるよ」

話に割り込むことなどお構いなく、そう言いながらわざと怖い顔に描いたそれを見せると、実際にちょっと怖い顔をして語り続けていた親父のその顔が一気にほころんだ。

なるほど、これが破顔一笑というやつか。

「まぁ今日はこの辺にしとくか」

そうつぶやいた親父は、にこにこしたその顔を変えることなく、満足そうにコップの水を飲み干したのだった。作戦大成功である。

そしてこれが、似顔絵の持つ力なのだと、僕は改めて実感したのだった。

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