似顔絵にまつわるエピソード(その25)|似顔絵の描き方が驚くほど上達する方法

(※とある女性の手記です)
寡黙な彼が、好きなのだ。

デートをしても、彼から話題を提供してくることなど、ほとんどない。私が一方的に話し、彼は終始無言で頷く、ほとんど常にそのパターンだ。

だけど、彼にもっとしゃべってほしいなどと、考えたことはない。私の話を聞いてくれている時の、柔和な笑顔がすべてである。それだけで私は満足なのだ。

そんな彼が唯一、目を輝かせて饒舌になる話題、それは、絵についてである。それも多くは、似顔絵について。彼は、似顔絵を描くのが何よりも得意なのである。

似顔絵の描き方を語らせたら、いつまででもしゃべってる感じ。っていうか、そういう内容って、言葉だけじゃよく分からないから(笑)。

で、最初は私も全く興味がなかったのだが、彼から何度も同じ話を聞いているうちに、ちょっとずつ興味を持ち始めて、今では簡単な似顔絵ならササッと描けてしまうくらいにまではなってしまった。

ところで先日、今でも思い出すだけで吹き出しそうになるくらいに面白い、だけど彼をますます好きになってしまうような、そんな一件があった。

彼の部屋に行ったとき、びっしりと本が詰まっている本棚(もちろん似顔絵関連のものも多し)の上の方の段の、一番右端に、1冊だけ、逆になっている本があったのですよ。

要するに、背表紙が奥になっていて、本の題名が分からない。

なんだか、一回意識したら、気になって気になって仕方がない。彼との話も上の空、っていうか、寡黙な彼だから、私があまり話を振らない(その本が気になって話を振れない)ので、会話が弾まない。で、彼がトイレに立った隙に、我慢出来なくてこっそり何の本なのか見てしまったのですよ。どうせエロ系かなんかかと思ったんだけど。

そしたらね、今はフリーのアナウンサーで、昔はプロレスの実況とかもやっていた有名な人の著書だったんだけれども、まぁ正確な題名は伏せるとして、要は、人間はしゃべらなきゃだめだ的な、会話術的な、そういう本だったんです。

もうおかしいのなんのって。ちょっとは気にしてたのかな、彼も。

いいから、ほんと。無駄な努力なんてしなくても(笑)。

寡黙なあなたが、好きなのだから。

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