(※とある男性の手記です)
こっちを向いて、ちょっとはにかむ、彼女のそんな表情が大好きだ。
その一瞬を、その表情を、無性に残しておきたい時がある。
そんな時、そそくさとカメラを構えて、とかでは、なんだか興醒めだ。そもそもそれでは、彼女も構えてしまって、違う表情になってしまう。
だからといって、常にカメラをスタンバイしておいて、こそこそと隠し撮りする訳にもいかない。
そんな時、気づかれないように、サラサラっと似顔絵が描ければ、その一瞬を、記録に留めておける。
彼女のベストショットを、そっと残しておけるのだ。
隠し撮りならぬ、隠し描きだ。
ぼくがそんなことをしていたのを知った時の、彼女の表情がまた、絶妙だった。
少しびっくりしたような、だけどちょっと嬉しいような、何とも言えない表情だった。
残念ながら、その一瞬を、残しておくことは出来なかった。
そして今ぼくは、彼女の似顔絵を描く必要はない。
我が家にいながらにして、間近にある彼女の表情を、記憶というキャンバスに、毎日刻めるからである。
この春には、新しい命も授かることになっている。
恐らくそれは、彼女と同じように、記憶に残る表情を、ぼくに見せ続けてくれるのだろう。