(※とある女性の手記です)
能書きはいいから、んじゃまぁとにかく、描いてくれよ。
上から目線のぞんざいな口のきき方は予想通り。まぁそれが彼である。
これはどういうセリフかというと、私が実は似顔絵を描くのが割と得意だという話になった際、彼の口から発せられたものである。
4年付き合ってきて、初めて明かす事実。別に、内緒にしていた訳ではないのだが、積極的に開示するような情報でもなく、会話の流れでたまたま明かすことになったのが付き合い始めて4年後だったというだけの話である。
それなのに彼ったら、あれやこれや、なんで今まで隠してた、もし知ってたらあーだこーだ、エトセトラ、エトセトラ。もう、うるさいうるさい。心底、明かしたことを後悔しつつ、若干本気で反論してしまった。
で、冒頭のセリフである。
まぁ描いてやらないこともない、と(決して口には出さずに、心の中で)つぶやきながら、次の瞬間、私はふと、描くのを躊躇った。
いかん。彼が怒るのが目に見えている。私の似顔絵は、特徴をかなりデフォルメしておもしろおかしく描くのが特徴なのだ。彼の右目下の泣きぼくろと、ちょっと大きい鼻の穴を、思いっきりデフォルメして描いたら、それはそれは彼は気を悪くするだろう。
かといって、それをやらなかったら、私の似顔絵が生きたものにならない。それをやらずして、似せることが出来るかどうかすら自信がない。似てなくて、なんだお前の腕前はその程度かと言われるのもしゃくだ。
私はしばらく考えたのち、結局いつも通りに描くことにした。もう、なるようになれである。怒っても知らないぞ。描けって言ったのはそっちだからな。
それにしても描きやすい顔だなぁ、などと(これも心の中で)ぶつぶつとつぶやきながら、私は似顔絵を瞬く間に描き上げ、恐る恐る彼に見せた。
彼の顔が、一瞬、硬直した・・・
・・・ように見えたのは気のせいだったか、次の瞬間、彼は大きな声で笑い始めた。
似てる。お前上手いなぁ。ほんとなんで今まで描いてくれなかったのよ。これ、おれじゃん。まさにおれじゃん。
ガハハハハ、と豪快に笑い飛ばす彼を見て、これは彼の器が大きいのか、それとも単に鈍感なのか、よく分からないまま、私もただ笑うしかなかった。