似顔絵にまつわるエピソード(その30)|似顔絵の描き方が驚くほど上達する方法

(※とある女性の手記です)
仕事柄、子供と接する機会が多いのです。

特に幼稚園の先生とか、保育士とかをしているという訳ではありません。現在の居住地が属する自治体が行っている取り組み(厚生の一環)で、安価で子供たちに体操(跳び箱、鉄棒、トランポリンなど)を教えているのです。

とはいえ、単に体操を教えるだけではなくて、子供たちとは出来る限り色々な方面から接するようにしています。そのため、家族のこととか、兄弟とのこととか、いろいろと相談されることもしばしばです。

様々な年齢のコースがあって、下は未就学児から、上は小学生高学年までなのですが、年も明け、新しい年度が始まろうかというこの季節、年齢に関わらず多くの子供たちから相談されるのが、「(幼稚園や学校でこれまで担任してくれた)先生に、一年間のお礼の気持ちを込めて何かをプレゼントしたいのだが、何がいいと思うか」というものです。

こういう時、大人同士であれば、ちょっと高級な万年筆などをさりげなく贈るのがカッコいいし、実用的でもあるのかもしれませんが、こと子供から贈るものとなると、値段云々、実用性云々ではなく、いかにその純粋な気持ちが込められるか、感謝の気持ちが伝えられるかという、その点に尽きる訳で、正直それさえあれば何でもいいとは思うのです。

だからといって、「何でもいいんじゃない?」と答えるのも全くもって芸がないですし、特に子供はそんな答えは期待していないでしょう。そこで私は、気持ちが込められて、感謝の念が伝えられる最適なものとして、いつも「似顔絵」を描いてプレゼントすることを薦めています。

「えー。そんなの描けないよ~。」という答えを半ば覚悟していつも薦めるのですが、意外や意外、そういった反応をする子供はごくわずか。ほとんどの子供が「なるほど!」といった反応で、喜び勇んで帰っていきます。

すべての子供たちのその後を追いかけている訳ではありませんが、後日、何人かに結果を聞いてみたところによれば、みなアドバイス通りに一生懸命似顔絵を描いて贈ったようで、もらった先生の反応も上々だった様子。こういった話をする時の子供の笑顔を見ると、私も心の底から嬉しくて、このために仕事をしていると言っても決して過言ではないなぁ、と実感します。

そして今年。

私事により、ついに私も体操を教える仕事を卒業することになりました。何年にも渡って教え続けてきた子供も多いし、その子たちと一緒に自分も成長させてもらった思いが強いので、本当に、言葉では言い表せないくらいの感慨と寂しさがありました。

そして最終日、「先生に最後のプレゼント!」などと口走りながら、子供たちが私のところに一斉に集まってくる。みんなの手にあるのは、それぞれが思い思いに描いてくれた、私の似顔絵。どうやら最後の最後まで、私のアドバイスを聞いてくれたようです。

その日は、絶対に泣かないと決めていたのに、気が付けば人目もはばからず、号泣している自分がいたのでした。

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